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ICF 2016

Future Work

2016年10月20日
Facilitator / Resource Persons
大越 いづみ
Facilitator大越 いづみ
電通総研所長
吉田 浩一郎
Resource Person吉田 浩一郎
株式会社クラウドワークス
代表取締役社長 兼 CEO
南 章行
Resource Person南 章行
株式会社ココナラ 代表取締役社長
根来 龍之
Resource Person根来 龍之
早稲田大学ビジネススクール教授
早稲田大学IT戦略研究所所長

Future Work
人はなぜ、どこで、どのように働くのか?~テクノロジーと共生する働き方をデザインする~



これまでの20年間とこれからの20年間

大越

これからの20年を考える前に、まずは、「働く」という観点でみたときに、過去20年間でどのような変化があったのか教えて頂きたい。

根来

職種によって大きく異なるが、大学教員などはほとんど変わっていない。一方で、クリエーターの仕事などは、仕事の仕方も効率性もアウトプットの質も大きく変化した。全体論としていうと、パソコンに向かっている仕事が大幅に増えており、事務の仕事などはパソコンに向かっていることが仕事のようになっている。まったく変わっていないのは通勤ラッシュ。東京における通勤ラッシュは過去20年間でほとんど緩和されていない。


人工知能(AI)やロボットなどによる労働の代替

大越

今後、人口知能(AI)やロボットは労働市場にどのような影響を及ぼすだろうか。

根来

AIとロボットは働き方に大きな影響を及ぼす。AIによる事務労働の代替は確実に進む。その後、ロボットへの投資がリターンに見合うようになった時、単純労働のロボット化が更に進行する。全体としては、人間の働く時間は減っていく傾向になる。

吉田

産業革命はブルーカラーに大きく変化をもたらした。これからの時代は、ホワイトカラーに大きな変化が起こる。「ブルーカラー」、「機械」、「ホワイトカラー」、「AIが作る新しいカラー」みたいなものが出てくるだろう。現在のクラウドソーシングはその一側面でしかない。社会の大きな働き方の変化がある。

情報の非対称性で勝負する仕事はなくなる。「知っている」ことの価値は薄れ、「答えがわかっている」ものは全部テクノロジーで置き換えられる。答えがわからないものや、テクノロジーで置き換えられないようなものだけが残る。

ファシリテーター1

クラウドワーキング/クラウドソーシングという働き方

大越

クラウドワーキングやクラウドソーシングという働き方が出てきているが、それはどのような働き方なのか。

吉田

クラウドワーキングとは、個人が時間と場所にとらわれず働ける、あらゆる人々にとって働く機会を新たに提供しているサービス。

ココナラは「時間と場所にとらわれない働き方」からスタートしているというよりは、自分の経験やスキルを1対1の関係性において直接提供することで、「ありがとう」と言われ、その言葉を通じて「生きる喜びを知る」というところからスタートした。

大越

現在の労働市場は、正規労働と非正規労働という形に分離していて、非正規で間に合うことは非正規にしようという考え方が中心。しかし、長期的には、そのような区分はなくなるだろう。極端な言い方をすると、全部、非正規になる。つまりほとんどの人は、企業で働いている人も裁量労働制のような状態に移行する。そうなると、「個人」が自分の働きたい時間に働きたい場所で働くという方向になるのではないか。

吉田

われわれのサービスは非正規という議論でいくと、ポジティブ、ネガティブの両方の側面がある。正社員比率が2015年に50%を切るというデータがある中で、残り50%の働き方の受け皿になっているというのがポジティブな側面。一方で、非正規を加速させているという批判もある。


企業の存在意義と「希少性」

会場

個人の力が強くなると、究極的には、会社という組織がなくなり、全ての人が最低賃金で働くことになるという考え方もあるがどのようにお考えか。

根来

組織というのは取引コストによって成立している。今後は、労働と企業との間の取引コストが下がるため、労働が個人化していくが、それでも企業はなくならない。人を組織するための枠組みとして企業は必要。また、資本を担う存在としても必要。工場をつくるにも、新しい技術開発をするのにも資本が必要。大きな資本は企業が有しており、その資本の希少性がなくならない限りなくならない。また、すべての賃金が最低賃金に近づいていくこともない。賃金は、希少性と取引コストで決まる。クリエイティブな人材は希少なため給料が高い。つまり一部のクリエイティブな市場が広がっていけば、その部分で希少な労働をする人材の価値は高くなっていく。希少なものは必ず値段がつくので、全員が最低賃金になることはない。


個人がエンパワーメントされる時代

テクノロジーの進化で個々人が違った働き方をすることができるようになっているため、これからは、「個」にだんだん戻ってくる時代になると考えている。これまでの時代は、国は企業に働く人たちのことをケアするような仕組みをつくってきたが、社会保障制度も現在の状態を維持していくことは難しい。また、超長寿社会になり、80歳90歳まで働かないといけなくなる時代において、企業が人材を抱え続ける時代は終わらざるをえない。個人をエンパワーメントするというと、自由でいいイメージを持つかもしれないが、自由の裏には必ず責任がついてくる。それが個人について回るのがこれからの時代。

大越

エンパワーされた個人というのは、どのような状態なのか。

究極にエンパワーされた状態というのは、社会の中で自分の働き方を選択的にできていて、ちゃんとバリューを出せているということ。稼げるから働くのではなくて、やりがいがあって自分らしさがあって、自分が人から求められる状態になっているから働く。「頑張っている」ではなく、「気持ちよく」働けている状態が実現されていたら、それがエンパワーされている状態だと思う。

吉田

お金のリッチから共感のリッチに変わってきている。これまでは、金銭的な豊かさが羨望の対象であったが、これからは金銭的な豊かさではなく、むしろ共感の豊かさ、共感を集めている人が羨ましいという状態、それが、エンパワーされた状態だと思う。

ファシリテーター1

未来を描くということ

大越

夢を描くということが日本人は苦手で、結果として課題対処型の国になっているように感じる。

根来

夢を描くべきというのは仰る通りだが、将来をデザインするというのは不確実なことをデザインするということであり、意見が必ず分かれる。かつ、利害関係も分かれる。民主主義と長期的なデザイン思考は合わないところがあって、民主国家であればあるほど、そう簡単にデザインできない。そのため、国には描けない。そうすると、国がやるべきことは、働くという観点でいうと、クラウドソーシングみたいな取組みを阻害する制度とか法律をなくすということ。それは部分的な解決でしかないけれど、長期的には効果をもたらす。

大越

新卒の若者のほとんどが企業に就職することを前提にして作られている現在の社会保障制度が、いわゆる非正規の労働者が大半を占め、企業の役割も変わっていったとき、社会のグランドデザインを書き直さなければいけなくなる。オールフリーランサーという時代にはならないかもしれないが、その割合が増えていった時の仕組みや制度について議論をしておく必要はあるだろう。