Institute for Urban Strategies

> 都市戦略研究所とは

> English

ICF2020 都市戦略セッション Part 3

「世界都市の構造的変化:ポストコロナ時代における魅力的な都市の姿とは?」Part 3 パネルディスカッション

2020年11月27日(金)開催
六本木アカデミーヒルズ タワーホール
登壇者
Hiroo Ichikawa
モデレーター市川 宏雄
明治大学 名誉教授
帝京大学 特任教授
森記念財団 理事
Ben Rogers
パネリストベン・ロジャース
ロンドン大学 実務教授
前センター・フォー・ロンドン理事
Jonathan Bowles
パネリストジョナサン・ボウルズ
センター・フォー・アーバン・フューチャー 常任理事
Miki Muraki
パネリスト村木 美貴
千葉大学大学院工学研究院 教授
Dr.Limin Hee
パネリストリーミン・ヒー博士
センター・フォー・リバブル・シティ 研究理事

※以下プレゼンテーション内容は、2020年11月開催のICF2020都市戦略セッション時点の情報を元に構成されており、現在の状況とは異なる可能性があることにご留意ください。




パネルディスカッション

市川

四つの都市それぞれにおいて色々な対処をしていることが分かった。今回のパンデミックを受け、働き方、住まい方は、恐らく何かしらの変化が出てくるだろう。そのような状況の中、我々は今何を考えるべきか。




Question 1:今起こっている働き方や住まい方の変化は、ロンドン、ニューヨーク、東京、シンガポールなどの国際都市のあり方(都市の競争力の定義)にどのような影響を及ぼすと思うか?

icf_20201127_3_01.jpg

市川

世界の各都市は今回のパンデミックにより働き方、住まい方が変わっていく中で、グローバル都市として、どういう力、競争力を持つべきなのか、持ち得るのか。皆さんのご意見を伺いたい。




ベン・ロジャース

2つの大きな変化があるだろうと思っている。
1つ目としては、これからの都市の計画のあり方において、今まで以上に不測の事態に対する許容性や、回復力(レジリエンシー)の観点を持つようになれば良いと思っている。ロンドンではこれまでその様な観点をしっかりと持つことが出来ていなかったと思っている。私は今回のCOVID-19によりこうしたマインドセットを改めさせ、今後起こるであろう気候変動などの不測の事態に備えるようになれば良いと思っている。

2つ目としては、今回のパンデミックを機に、家でもできるような仕事でもオフィスで仕事をする、という決まり切った考えや慣習に一つの区切りがつけばよいと思っている。これまでの、オフィスで全ての業務を行うという考えは実に非効率な考えだ。限りのあるスペースに対して負荷を与えるだけでなく、交通機関にも負荷を与える。私自身、対面でのコミュニケーションは必要不可欠だと思うし、それが事業を進めたり、教育を行うにあたって最も生産的な方法であると思っている。しかし、かと言って今後もすべてが従来通りの形である必要はないと思っている。

つまり私は、今後の都市、都市空間というのは、ルーティンワークやミーティングを行うための場ではなく、本当の意味で誰かといなければ成立し得ないような、何か特別な事柄の為に存在している、という新たな価値を持つべきだと思う。例えば何かリアルでのパフォーマンスを見たり、直接会うことでしか得られないような知識を得たりするための場としての価値だ。




ジョナサン・ボウルズ

ベンと同意する点として、私が今最も気にかけているのは、リモートワークの今後の動向だ。リモートワークを実践するのは、口で言うより簡単ではない。そういう実情を鑑みると、今後も皆が皆、自宅から働き続けるわけではないだろうと思っている。自宅で働くことは未だに多くのチャレンジがあるし、その点からも多くの人は如何にすれば元々いたオフィスに戻って仕事をできるようになるか、と試行錯誤していることだろうし、しばらく自宅での仕事を実践してみて、狭く窮屈な部屋で仕事をすることは不便である、と感じたかもしれない。

しかしながら今後のオフィスはきっと、近隣立地型、もしくはサテライト型のオフィスがより一般化するだろうと思っている。これはきっとマンハッタンのミッドタウンや、先ほどベンが例に挙げた、ロンドン中心部等の中心業務地区に非常に大きなインパクトを与えることになると思う。ニューヨークでは既にこの流れは起きていて、中心業務地区において実際に影響が生じている。マンハッタンのミッドタウンエリアのオフィスワーカーの出勤が減ったことにより、その他のサービス系の業種に対して、2次的な影響が生じている。これまではワーカーたちが仕事終わりに飲みに行ったり、ランチには近くのレストランで食事をしていた。こうしたお店は多くの職、特に大学教育を受けていないような人々に職を与えていた。

最も恐れるべきは、このような外への拡大がより一層進行することだ。なぜならニューヨークやロンドンといった都市に魅力をもたらし競争力を持たせていたのは、都市がもつ近接性があったからだ。多くの企業が非常に高い賃料や税金があるにも関わらずニューヨークに移ってきた理由は、この場所に“タレント:人材”が存在していたからだ。もし、こうした人材をリモートでどこからでも活用することができるのであれば、おそらく多くの企業は都市に居続けなくなるだろう。もしそうなれば、それは都市にとっては非常に大きな危機につながる。

では、ニューヨークのような都市は今後何ができるのか?
私は、始めに我々の都市を今の立位置に押し上げてくれたものは一体何か、という部分に再度フォーカスを当てるべきだと思っている。つまりニューヨーク等の世界の大都市の魅力を形作る要素、例えば文化やナイトライフ、いきいきとしたストリートライフ、散策し回ることのできる都市、といった部分にもっと目を向けるべきだ。他のアメリカの都市にはこうした要素があまりないからこそ、多くの人がニューヨークに集まるのだ。ニューヨークのような都市は変化の最中にあっても、こうした要素に注力し続け、多くの“タレント:人材”を今後も惹きつけ続ける必要がある。




村木美貴

世界都市に求められるものは何かというと、私も同じく文化や、交通、環境、にぎわい、エンターテインメントなどが大事だと思っている。
加えて、コロナによって新たに考えなければならないのは、フレキシビリティーの要素だと感じている。
働く場所のフレキシビリティーを一例にとると、業種によって働くのに適した場所が大きく異なることが徐々に分かってきている。今後はどういうタイプの業種が在宅に適していたり、場所にとらわれずに行うことができるのか、といったことのすみ分けをもう少し考え柔軟に対応していかなければいけない。このようなフレキシビリティーを実現するためには、デジタルの情報をどれだけ確実にアクセスできるようにするのか、情報上のセキュリティーを如何に守るのか、といった部分が重要になると感じている。
一方で、どの業種ににおいても対面でのコミュニケーションはとても大事であることも認識しているので、そういった部分に重きを置くところは大都市にあり続けるのだと思う。




リーミン・ヒー

3つの点を強調したい。

1点目としては、私たちは公共、民間、そして人々の間での新しいコラボレーションの形を作っていかなければならないと思っている。別の言い方をするのであれば、社会全体を巻き込んだようなアプローチが必要だということだ。今回のパンデミックを乗り越え、そしてウィルスと共存していくための解決策の多くは、統合的なアプローチが必要であり、実現するには先ほどの3者間のコラボレーションがより密に行われる必要がある。

2点目は、テクノロジーの有効利用だ。シンガポールの例からもわかる通り、私たちは在宅での勤務、在宅での学習を実現するデジタルインフラを構築している。これは現在世に存在する最も最先端のテクノロジーを受け入れ、最大限有効利用する上でとても重要なことだ。今の私たちの仕事の状況を見ると、対面でのレクチャーからオンラインのウェビナーへ、そしてZoomでのミーティングを行う等、すでにこうした新しいインターネット上のプラットフォームを活用しているが、このようなテクノロジーの有効利用をさらに様々な分野にも広げていく必要がある。

3点目として、私たちは本当の意味で健康な都市を作りあげる必要がある。都市にもっと緑や公園を増やし、誰もが容易に自宅からアクセスできるようにしなければならない。そしてアクティブなモビリティーを用いて、近くの目的地や職場に、歩いたり、時には自転車に乗って移動したりと、様々な移動手段を提供し、繋がりのある社会的な日常生活を未来の都市では創り出さなければならない。




市川

東京は、集積度が大変高い、一極集中をしている都市だが、今回のパンデミックで人々が東京の外に移るのではないかということが言われてきた。冒頭のアンケートの結果を見ると、東京の約7割の人は、住む所を変えたくないと言っている。これは裏を返せば3割弱は移る可能性があるということだ。
東京の2020年6月~9月の人口動態のデータをもとに、東京で実際何が起きているかを見てみると、東京23区の中でこの間に人口が減少した都市は15区存在していた。裏を返すと8つの区では人口は横ばいもしくは増えている。増えている区を見ると全て都心区であった。冒頭のアンケートでも、シンガポールとニューヨークでは、もし移り住むとすれば都心に移りたいという層が多くいた。これらの事実は非常に重要だと思っている。皆さんがおっしゃったように、大都市に人々が集まる理由、つまり魅力が相当あるということがここからも分かる。パンデミックを恐れ、密集を避けたいという層がいることは当たり前だが、その一方で大都市に求められるものは変わっていないのかなと感じている。その文脈で考えると、皆さんが挙げられた通り、ある種のサステナビリティー、つまり変化に適応できる力を備えるということは、これからの世界都市の大きな課題だと感じた。

※例外的に港区と新宿区は人口が減少している。これらの区はともに外国人居住者が多く、外国人居住者が母国に帰ったと思われる区では都心区でも減少が見られる。




Question 2: 仮にパンデミックがこのままさらに悪化し続けた場合、世界の大都市はその活力を失い崩壊することはあり得るのか?


市川

仮に大都市が不滅ではなく、何らかの問題を起こし、これからの流れの中で今までの機能を失うとなると、これは非常に大きな影響を国、そして世界に与えることになる。そのような悲観的な見方で都市のことを考えた場合、カタストロフィー的な、都市が駄目になるかもしれないというシナリオはあり得るのだろうか?




リーミン・ヒー

都市は、インフラ面における回復力(レジリエンシー)だけでなく、コミュニティにおける回復力(レジリエンシー)も持つことで、こうした事態に備えてきていると思っている。その意味で私は都市の崩壊を目の当たりにすることは無いと思っている。しかしながら、将来的に都市はより一層回復力(レジリエンシー)を持つべく変わっていく必要があると思っている。これはパンデミックに対してだけでなく、気候変動や、食料の枯渇、経済変動等に対しても回復可能な体制を持つようにする、という意味だ。

そもそも、回復力(レジリエンシー)のある都市を築き上げるという考えは非常に重要だ。これを実現するためにシンガポールで既にだいぶ前から実施しているのが、ポリセントリック(多中心)な都市を作り上げるということだ。我々はCBD(中心業務地区)にただ頼るのではなく、多くの郊外センターを持ち、それぞれをイノベーション地区としている。そしてさらに、自立し持続可能な街や地区を多く作り上げることで、都市に移動せずとも自宅の近くで仕事を探すことができ、そして日々必要なものもそれぞれの地域や近隣でそろえることができるようにしている。




ジョナサン・ボウルズ

もちろん、ニューヨークの将来について懸念している点はある。そうはいっても、崩壊を目の当たりにする、ということはないだろう。ニューヨークはこれまでも、9.11のテロ攻撃から立ち直ってきたし、さらに言えば1970年代にはより深刻な財政危機にも直面してきている。
“パンデミックと感染の拡大の恐怖はニューヨークやその他の都市の人口を減少させるのか?”という問いについて考えると、ニューヨークが2020年の4月から5月の最も深刻な状況から立ち戻り、アメリカ国内において最も安全な場所の一つとなり、ニューヨーク以上に人々が安全に思える場所はおそらくない、という状況を鑑みるに、ニューヨークは今回もきっと立ち直るだろう。

ニューヨークが今の状況から立ち直り、かつより回復力(レジリエンシー)のある都市になるには、より安全性を高めるということが重要になるだろう。ニューヨークは1980年代の犯罪にあふれた状態から、公衆安全に積極的に投資し安全性を高めることで1990年代に立ち直り、そして9.11以降は世界的に見てもテロに対して安全な都市となった。これらの安全性の確保は、ニューヨークの居住者や、訪れる人々にこの場所に居続ける、来続けることを説得する上で欠かせない要素であった。
今ニューヨークに必要なのは、今回の、そして似たような健康・医療の危機に対して極めて安全である状況を創り出すべく、しっかりとステップを踏むことである。 まだ我々はそれが出来ていないと思っている。他の都市、特にアジアの都市は過去のSARSの感染拡大から学びその教訓を今回のパンデミックでしっかり活かすことが出来ているということを証明している。ニューヨークは、2020年4月に起きたことを教訓に、いまだかつてないほど安全になったということを世界に対して示す必要がある。




ベン・ロジャース

私は、ロンドンの事だけを思うだけでなく、国全体の事を思い、世界の大都市は崩壊しないことを祈りたい。なぜならロンドン、ニューヨーク、東京等の世界の大都市は、それぞれの国において経済的に非常に重要な役割を担っているからだ。もしロンドンが世界の大都市の地位から崩落すれば、それはイギリスの経済全体に大惨事を招くだろう。

私は今回のパンデミックを、都市が直面するリスクの一つに過ぎないと思っている。
都市の素晴らしいところは、人々を寄り集め、近接させることにより、生産的かつ創造的であるという点だ。しかしながらこの近接性は時に、渋滞や、伝染病、過密、火災等、ありとあらゆるリスクの元になりうる。このようなリスクはこれまでも常に都市と共に存在してきており、今回のパンデミックにおいてもその本質は変わらない。私がもし今後のロンドンの行く末において心配するのであれば、それは次のパンデミックへの備えに集中しすぎる余り、より大きなチャレンジに目が行かなくなることだ。ここで私が思うより大きなチャレンジとはずばり、気候変動のことだ。

楽観的な視点に立つと今回のパンデミックは、不測のリスクの存在と、それらに対する回復力(レジリエンシー)について、長いスパンで考えていかなければならないということを、世界に、そしてロンドンのような大都市に対して、思い知らせた良い機会になったのではないかと思っている。




村木美貴

今回のパンデミックを受けても東京の集積は簡単に減ることは無いと思っている。東京は日本経済を引っ張っていかなければならず、それはおそらく皆共通の認識であることから、東京が沈むことはないし、世界都市はどこも沈んではいけない。
先ほどのJonathanさんの写真等を見ていて思ったのが、東京は安全に楽しめる屋外空間の活用を、もっとやれるのではないかと感じている。それが東京のさらなる魅力をつくっていくことになると思っている。アフターコロナを見据えながら、もう少しその辺りも考えていくべきではないか。




Question 3: 各々の都市が、その魅力、競争力をさらに持つためのキーワードは何か?

icf_20201127_3_02.jpg

市川

最後に、これから各々の都市、皆さんの都市が魅力をさらに持つためのキーワードは何かを伺いたい。




ベン・ロジャース

ロンドンはこれまで、ある意味未熟な発展の形を遂げてきたように思う。常に都市の発展のフォーカスが都市の中心部に当たっていたように思う。今後も継続的に成長し、世界をリードする大都市であり続けたいと願うが、今後はより回復力を持ち(レジリエントで)、持続可能で包括的なあり方を持って進むべきだと思う




リーミン・ヒー

キーワードは、“回復力(レジリエンス)”“調査研究(リサーチ)”、そして“中心転換(リセンタリング)”の3つだと思う。
お話ししたように、私たちは都市にもっと“回復力(レジリエンシー)”を持たせないといけない。
そして “調査・研究”にさらに焦点をあて、より一層回復力のある都市になるべく、知識を蓄え、共有しなければならない。都市間のフォーラム、例えばWorld City Summit等を介しての協力体制はとても重要だ。
そして最後の“R”は“人間”に議論の“中心を転換する”という意味だ。私たちは、人間がより健康でいられ、緑があって、繋がりのある都市を作らねばならない。




ジョナサン・ボウルズ

1つ目は“準備(備え)”だ。都市は回復力を持ち合わせるべく、そして21世紀に訪れるパンデミックに留まらない、気候変動や、テロ、そしてそれ以外の様々な不測の事態に対応すべく、“準備”しておかなければならない。

2つ目は“包括性”だ。ニューヨークはこれまでずっと、ニューヨークが持つ多様性により、その活力を得てきた。他の多くの都市もきっと同じだろう。しかし近年、多くのニューヨーク市民、特にニューヨークの有色人種の人たちが先に進むことができずに苦しんでいる様子を私たちは目にしてきている。より多くのニューヨーク市民が繁栄するか仕組みを見出すか、もしくはより多くの人が繁栄の機会を得られるような仕組みを見出すことができない限り、私はニューヨークの重要性は今後失われていくだろうと思っている。




村木美貴

私は “判断するためのデータとその見せ方”“フレキシビリティー”、そして、 “それらの評価方法”だと思う。